



筒井さんは、4代目の社長さんだそうですが、
どんな気持ちで会社を経営されているのでしょうか?
私が社長に就任したのは、今から3年前の32歳のときです。28歳までは他の会社で営業マンとして働き、その後ここに入ったのですが、当初の私は競争意識を強く抱いていて、この会社を大きく拡大させたいと考えていました。そんな私が社長になったとき、先代の社長である父は「いいタクシーをつくることが一番大事だよ」と諭してくれたんです。質の高いサービスを追求し、地元の人の信頼できる足になること。そして社会に貢献することが、めぐりめぐって会社も高める、と。その精神に触れて、目からウロコが落ちる思いでした。
その精神を、どんな風に具体化されてるのでしょうか?
みなさんはあまり意識されないかもしれませんが、タクシーはバスや電車と同じ公共交通機関なんですよ。だけど、運転手さんのサービスにばらつきがあったりして、ご年配の方や親子連れなど、みんなが安心して乗れる交通機関とはいい難いところもありますよね。それではいけないと思っているんです。だからみんなが気楽に安心して乗れるように社員教育に力を入れてサービスの質を高めることに重きを置いてます。
私たちは「移動させるプロ」と自負しているのですが、これを応用して30年前から介護タクシーというサービスを行っています。それに続いて、今年からは子育てタクシーもはじめました。
それはユニークな試みですね。でも、実施されるには準備が大変だったのでは?
乗務員の教育は、地元のNPOなどにも協力してもらって、特別研修を2カ月間行いました。児童館でも研修をさせていただいたのですが、突然たくさんのおじさんがやってきたら子どもたちが驚くでしょうから、2名ずつくらいの順番で(笑)。
こうした乗務員教育は、やってみると結構大変でしたが、おかげさまで子育てタクシーはとても評判がいいんですよ。また、ご乗車いただいたお子さんから「ありがとう!」と声をかけてもらえることが多いようで、乗務員にとっても新鮮なようです。やはり、正直に気持ちを表現する子どもさんからのほめ言葉は、なによりの評価ですし、子どもさんに対して仕事ができるというのは、格別のやりがいがありますね。


ルールを作ろうと思われたきっかけを教えてください。
きっかけは、テレビで和田投手のCMを見たことです。自分の仕事を通じて社会貢献するというやり方がとてもいいなと思いました。さきほどもお話したように、公共交通機関であるタクシーは、そもそも社会貢献的な要素を含んでいるのですが、ルールを作って寄付をするというやり方は、さらにもう一歩進んだ新しい社会貢献の形だと感じました。
1,000km走るごとにワクチン1本を寄付するというルールは
具体的にどんな風に考えたのですか?
ルールは、負担なくずっと長く続けられて、社員全員が参加している意識をもてる内容にしたいと思っていました。タクシーは、走ることが基本の商売です。お客さんを乗せているときはもちろん、乗せずに走っているときも大事で、どう考えて、どこを走るかで結果は随分違ってくるんですよ。だから料金の発生するときだけでなく、走行距離全体にひもづいたルールで寄付をしようということになりました。
1,000kmといっても想像しにくいかもしれませんが、ひとりの乗務員が一週間まじめに仕事をしたら、だいたいそれくらいの距離になるんです。私たちのルールは、1,000kmごとに乗務員が10円、そして会社が10円を出し合って、合計20円を寄付するというもの。つまりポリオワクチン1本を寄付するという内容です。お客さんからは直接寄付はいただきませんが、お客さんが料金を支払ってくださるお陰で会社の利益が出ていますから、間接的にお客さんからも寄付していただいていると考えています。
それから、毎月の寄付本数をタクシーの車内に表示して、お客さんにもお知らせしているんですよ。たとえば「10月は、4438本」という風に。すると、お客さんから「いいことをしてるんですね」とおほめの言葉をいただいたりするんです。これも乗務員にとって、いいやりがいになっているようです。


とてもいいルールを作って実行されていますが、今後寄付活動をどのようにやっていきたいと考えておられますか? またどんなタクシーを目指していきたいと思われますか?
ルールは今年の6月からはじめたばかりですが、社内外ともに評判がよく、なるべく長く続けていきたいと思っています。今は不景気ですから、タクシーにとってはしんどい時代です。でも、サービスの質を高めるという基本を忘れず、時代に合ったサービスを創出していきたいと思っています。そして、いいタクシーが選ばれるような、そういう文化が生まれてくれたらいいなと思っています。
実はこの会社の2代目にあたる祖父は、戦時中にミャンマーに赴いていたんです。多くの兵士が亡くなるなか、私の祖父はミャンマーの方々に大変よくしていただいたそうで、お陰様で日本に無事帰還することができました。ワクチンへの寄付は、ミャンマーに支援しているから選んだわけではないのですが、偶然にもこうしてミャンマーの子どもたちにも支援することになり、不思議な縁を感じています。私もいつか、ミャンマーへ行ってみたいと思っています。







